北海道浦河町で精神障害のある当事者らが運営する「浦河べてるの家」。

生きづらさを抱えた人の地域生活を支える社会福祉法人であると同時に、特産品販売などを手掛け、年に1億円を売り上げる事業体でもある。
べてるのルーツは、病院の精神科を退院した当事者数人と支援者で、1978 (昭和3)年に立ち上げた「回復者の会」。
メンバーは退院後に地域で暮らす中で、精神障害者に対する偏見が根強いことを痛感した。
「町民の1人として貢献できれば、住民の視線も変わる」と、特産品の日高昆布の袋詰め作業を請け負うことにした。
「ベてるの家」と名付けられた町内の古い教会で事業をスタート。
しかし、当初は仲間内のけんかなどトラブルが続き、悪い評判が絶えなかった。「はんかくさい (愚かな)ことを言うな」と笑う住民もいた。
それに対して掲げた商売のキャッチフレーズは「精神障害で町おこし」。
昆布の請負作業から自前での商品製造に切り替えたのを手始めに、高齢者宅の紙おむつ配達、リサイクル業などにも拡大し、事業は徐々に軌道に乗った。
人気商品は等級の異なる昆布の切れ端を詰め合わせた「バラバラ昆布」。
病状がさまざまなメンバーの状態を “商品化したものという。
ただ、統合失調症やうつ病などを抱える人の就労には苦労が多い。
調子が悪い、長続きしない、発作的に感情をぶつけるー。
日常的に起こる問題に対処するため、「三度の飯よりミーティング」という理念を掲げた。
仕事内容や労働時間、体調など、細かい部分まで話し合うミーティングは月に100回以上。
コミュニケーションを取って支え合う関係をつくり、「安|心してサボれる職場づくり」を心掛けてきた。
ベてる創立時からのメンバー、早坂潔さん(63)は「自分に正直に働けるところがいい」と語る。
当事者たちが活躍できる機会をつくりながら地域活性化にも貢献する取り組みは、産業衰退や過疎が進む浦河町で少しずつ浸透。
これまでずっと「支えられる側」だった当事者たちにとって、「社会を支えている」という自信にもつながっている。
町内の浦河赤十字病院精神科の病床は1990年代後半に130あった。
この20年ほどで就労や生活支援、居住の受け入れ体制が進み、2014年にはゼロになった。
当事者高士の恋愛や結婚、出産、子育ても見慣れた風景。
ベてると行政、住民が協力し、地域全体で障害のある人を支える環境が整っている。
べてるで働くスタッフ約90人のうち、約10人は当事者。
経験者だからこそ、仲間が地域で生活できるよう悩みや苦芳に寄り添うことができる。
19歳で統合失調症を発症した伊藤知之さん(49)も時々起こるパニック症状などを抱えながら支援に奔走。
「私たちは1人では何もできない。社会や仲間など支えとなる依存先を見付けることが自立につながっていく」

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