私たちは外からの食物などを体内に取り入れ、消化吸収し、細胞内で蛋白などの物質につくり直したりエネルギーに変えたりして生きている。この過程の中で不要となる物質(不要物、かつては老廃物と呼ばれていた)も生まれ、それを体外に棄てる必要が出てくる。たんぱく質・アミノ酸などから生まれる尿素チッ素や、余分な糖やナトリウムなどは水を溶かして「尿」として体外に棄てる。尿は不要物を棄てるために排出される。もし尿がつくられず排出されなくなると(無尿または乏尿になると)「尿毒症」になって死亡する。
細胞が代謝を行っているときには「熱」が発生する。これを放置すると蓄熱がおこり、体温が高くなって細胞の機能に影響がでる。細胞内温度が42℃になると細胞は機能を停止する。つまり死が訪れる。
細胞内で絶え間なく発生する熱は血液によって皮膚に運ばれ、そこの汗腺から水分とともに発散させられる。これを「不感蒸泄」という。汗がスポーツなどを生じて”自覚される水分の発散”であるのに対して、不感蒸泄は自覚されない発散を意味している。その目的は熱を体外に棄てることのある。
このほかに消化吸収後の食物残渣も便として体外に棄てる必要がある。食物残渣以外に腸の粘膜の脱落上皮(古くなって新しい上皮と替わったもの)や大腸菌など大量の腸内細菌の死骸も大便を形づくり、これをまとめるのに水分を必要とする。
つまり、われわれの体は水の力を借りて不要物を体外に棄てており、もし水のはたらきがなければ生命の存続が危うくなるであろう。
しかし、水を体外に放出すれば体内水分は次第に少なくなって、生命活動に支障をきたすようになる。それを防ぐために、水を取り入れる。その方法は、固形の食物からと飲水である(このほかに細胞内の代謝で発生する水分ー燃焼水がある)・
このような水の1日の出入りを以下に示した。
尿 1500 飲水 1500
不感蒸泄 700~1000 食事 700~1000
便 200~300 燃料水 200~300
(1日の水の出入り)
体の中にある大量の水分は何のために存在するのかを考えてみよう。
答えは”細胞の機能を維持する”ためにある。私たちが「生命」とよぶのは「細胞の生命」のことである。なぜなら体は細胞の集まりだからである。細胞の機能が正常であれば、その集合体としての生命も正常に維持される。
では、細胞の機能が正常に発揮されるにはどのような条件が必要になるだろうか。その条件は次の2つである。
〔第1の条件〕細胞が必要とする栄養や酸素などが十分に供給されていること。
〔第2の条件〕細胞がはたらきやすい環境にあること。
第1の条件は、細胞は活動エネルギーを生み、同時に蛋白質をはじめとする物質をつくるところであり、そのための素材として栄養と酸素を必要としている。栄養は主に小腸で消化吸収されて、酸素は肺で取り入れられて細胞に供給される。
このような細胞のはたらきが円滑に行われるには、それに適した環境を必要とする。たとえば体温が低すぎても高すぎても細胞は生命を失う。腋窩温で35~36℃台が最適で、この範囲にたもつために血液が熱を運んだり、運び去ったりする。
体の中の水分は、水(H2O)のほか電解質や栄養分などいろいろな物質が溶けて「体液」とよばれる。このうち、赤血球・白血球などを含んで血管を流れる体液を「血液」とよんでいる。
体液は、PH7.4の弱アルカリ性に保たれている。これが酸性になると「アシドーシス」とよばれ、重症になると死に至る。アルカリ性が強まると「アルカローシス」といい、同じことが起こる。アシドーシスの原因物質である水素イオン(H+)、アルカローシスの原因物質である二酸化炭素(CO2)を血液のはたらきで細胞から運び出して腎臓と肺から体外に棄てて調節する。
以上に述べたように、細胞が正常に機能できる環境はすべて水分の働きによって作られている。水分は細胞の働きを支配し、その活性化も、逆に死に至るような活動の低下も水分によって決まるといって過言ではない。
介護施設(家庭でも)で職員(家族)を悩ませるのは夜間の「不眠」「不穏」である。しかしこうした状態は水分ケアがしっかりし、1日飲水量が1500mlに達すると経験上はほぼ100%みられなくなり、良眠、熟睡が得られるようになる。
引用文献 参考文献
新版 介護基礎学 ~高齢者自立支援の理解と実践
竹内孝仁 著書
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